訪問記
Barbara Timmermann教授を訪問して
Higuchi Biosciences Center にて
静岡県立大学 薬学部 医療薬学大講座 薬物動態学分野 山田 静雄(グローバルCOE推進担当者)、尾上誠良
去る 3 月 28-29 日にかけて Kansas 州 Lawrence を訪れ、本学グローバルCOEの国際評価委員である Kansas 大学 薬学部 創薬分野 (Department of Medicinal Chemistry) Barbara N. Timmermann 教授を訪問しました。 1865 年に設置された同大学は Lawrence 中心部の小高い林の中に位置しており、約 30,000 人の学生に対して薬学を含む 14 学部で 175 分野のプログラムを提供している総合大学です。広大な敷地を誇る同大学には 120 ヶ国からの留学生が約 2,000 人在籍しており、国際色が豊かなことでもよく知られています。また、同大学には著名な日系薬剤学研究者である故 Takeru Higuchi教授(日本薬剤学会におけるタケル・アヤ ヒグチ賞でも知られる)が過去に在籍しており、1989 年には Higuchi Biosciences Center が設立されて産学連携の柱の一つとなっています。Center の設立には日系企業を含む多くの製薬企業が援助しており、今でも日本人研究者が多く訪れるようです。我々も同施設を見学する好機を得て、Higuchi教授 の偉業を示す展示物を多く見ることが出来、大いに刺激されました。
Kenner Rice博士のセミナーにて
まず、到着後は同部門の教官達との挨拶から始まり、Kenneth L. Audus薬学部長 ともお会いすることが出来ました。その後、NIH から特別講師として招かれた Kenner Rice博士 によるレクチャー “Corticotropin receptor antagonists and drugs and research tools” に参加し、レセプターリガンドの創製と薬理作用解析に関する研究紹介を受けました。構造活性相関の領域にとどまらず創薬科学全般を網羅した Rice博士 の研究内容は大変興味深いものでありましたが、それと同様に強く印象的だったのはセミナー後、大学院生から積極的な質問があったことです。Timmermann教授 から聞いたところ、演者に対して質問やコメントする積極的な姿勢も彼らの評価の対象となっているそうです。
Timmermann 教授との共同研究に関するディスカッション
滞在中、「薬食」を軸とした本学のグローバルCOE研究について話し合う時間を確保することができ、帯同した博士後期課程 1 年(現 2 年)三坂 眞元 君が英語で約 10 分程度のプレゼンテーションを行いました。プレゼンテーションのタイトルは “New drug candidates for COPD: focus on VIP and its stabilized derivatives” であり、 Chronic Obstructive Pulmonary Disease (COPD) モデル動物の開発やその治療のためのペプチド性粉末吸入製剤の研究に関するものでした。Timmermann教授らが精査している植物エキスあるいは単離有効成分について、COPD モデルでの薬理効果ならびに血中動態を評価し、植物エキスの摂取による COPD 改善の可能性を探ることが出来れば新しい治療の提示に繋がると思われます。同教授は、グローバルCOEの各研究課題に多大な関心を寄せておられ、成果発表会に出席できるのを楽しみにされていました。
現在、建設中のHTS center見学にて
最後に同大学の各種研究施設や現在建設中の High throughput Screening (HTS) center を見学させて頂き、ビジネスに直結したサイエンスのあり方を体験することが出来ました。特にHTS centerでは、単なる試験受託ビジネスにとどまらず、物性を考慮して厳選された10万個の化合物ライブラリーも構築しており、製薬企業のパートナーとしてのビジネス展開を視野に入れています。カンサス大学薬学部は、全米約80薬系大学中、NIH研究費獲得率(2007)がトップ(以下、カリフォルニア大学,アリゾナ大学,ニューヨーク州立大学の順)ということで、Research activityが非常に高いことが伺えます。2日間でKansas大学の基礎研究への取り組みからビジネスの機会構築まで幅広く体験し学ぶことができて非常に実りある訪問となり、このような好機を得たことと、多大な hospitality をもって我々を迎えてくれた Timmermann教授に感謝します。